PID制御とは
PID制御は、フィードバック制御の一種であり、制御対象の出力値 $y(t)$ を目標値 $r(t)$ に近づけるために広く用いられる制御手法です。制御対象の出力と目標値との偏差 $e(t) = r(t) - y(t)$ に基づいて操作量 $u(t)$ を計算し、制御対象に加えることで、制御系の安定化、目標値への追従性の向上、外乱抑制などを実現します。
P制御 (比例制御)
P制御の操作量 $u(t)$ は、偏差 $e(t)$ に比例して決定されます。
$$ u(t) = K_P e(t) $$
- $K_P$: 比例ゲイン。
- 特徴: $K_P$ を大きくすると、偏差に対する応答が速くなり、偏差を小さくする効果があります。しかし、$K_P$ を大きくしすぎると、応答が振動的になり、最終的には制御が不安定になる可能性があります。また、偏差が小さくなると操作量も小さくなるため、目標値との間に定常偏差(定常状態での残差)が残ることがあります。
PI制御 (比例積分制御)
PI制御の操作量 $u(t)$ は、偏差の比例項と積分項の和で決定されます。
$$ u(t) = K_P e(t) + K_I \int_0^t e(\tau)d\tau $$
- $K_I$: 積分ゲイン。
- 特徴: 積分項は、過去の偏差の累積を考慮するため、定常偏差を解消する効果があります。偏差がゼロになるまで操作量を出し続けるため、最終的に目標値に正確に追従できます。ただし、積分動作は応答に遅れを生じさせるため、急激な変化に対してオーバーシュート(目標値を超えてしまう現象)やハンチング(目標値の周りで振動する現象)が発生しやすくなることがあります。
PID制御 (比例積分微分制御)
PID制御の操作量 $u(t)$ は、偏差の比例項、積分項、微分項の3つの要素の和で決定されます。
$$ u(t) = K_P e(t) + K_I \int_0^t e(\tau)d\tau + K_D \frac{de(t)}{dt} $$
- $K_D$: 微分ゲイン。
- 特徴: 微分項は、偏差の変化率(未来の偏差の傾向)を予測して操作量に反映させます。これにより、偏差の急激な変化に対して素早く反応し、オーバーシュートやハンチングを抑制し、応答の遅れを改善する効果があります。
PID制御は、偏差の「現在(P項)」、「過去(I項)」、「未来(D項)」に基づいて制御を行うことで、安定性、目標値への追従性、即応性をバランス良く満たす制御系を構成できます。PID制御を適切に機能させるためには、$K_P, K_I, K_D$ の3つのパラメータを適切に調整する(チューニング)ことが非常に重要です。