H∞制御

H∞制御(H-infinity control)は、ロバスト制御理論の一つであり、システムに加わる外乱モデルの不確かさに対して、制御性能を保証することを目的とした制御器設計手法です。特に、最悪ケースの外乱に対するシステムの応答を最小化することを目指します。

H∞ノルム

H∞制御では、システムの性能を評価するためにH∞ノルムという概念を用います。H∞ノルムは、システムの周波数応答の最大ゲインを表し、外乱から出力への影響の最大値を意味します。

外乱 $w$ から制御対象の出力 $z$ への閉ループ伝達関数を $T_{zw}$ とすると、そのH∞ノルムは以下のように定義されます。

$$ ||T_{zw}||\infty = \sup{\omega} ||T_{zw}(j\omega)|| $$

これは、全ての周波数 $\omega$ における伝達関数のゲインの最大値(ピーク値)を示します。

また、エネルギーゲインの観点からは、以下のように定義されます。

$$ ||T_{zw}||\infty = \sup{w \neq 0} \frac{||z||_2}{||w||_2} $$

ここで、$||\cdot||_2$ は信号のL2ノルム(エネルギー)を表します。

$$ ||z||_2^2 = \int_0^\infty z^T(t)z(t)dt $$ $$ ||w||_2^2 = \int_0^\infty w^T(t)w(t)dt $$

H∞制御問題の目的は、このH∞ノルム $||T_{zw}||_\infty$ を、ある正の定数 $\gamma$ 以下に抑えるような制御器 $K$ を設計することです。つまり、

$$ ||T_{zw}||_\infty < \gamma $$

を満たす制御器を見つけることです。この $\gamma$ は性能指標またはゲインと呼ばれ、小さいほど外乱抑制性能が高いことを意味します。

H∞制御問題の定式化

H∞制御問題は、状態空間表現を用いて、以下の最適化問題として定式化されることが多いです。

$$ \min_K \sup_{w \neq 0} \frac{||z||_2}{||w||_2} $$

これは、制御器 $K$ を設計することで、外乱 $w$ から出力 $z$ へのエネルギーゲインを最小化することを目指します。

また、ゲーム理論的な視点から、以下のように表現されることもあります。

$$ \min_u \max_w \int_0^\infty (z^T(t)z(t) - \gamma^2 w^T(t)w(t)) dt $$

これは、制御入力 $u$ を選択することで $z^T(t)z(t)$ を最小化し、同時に最悪ケースの外乱 $w$ が $w^T(t)w(t)$ を最大化するという、ミニマックス問題として捉えられます。

H∞制御は、航空宇宙、ロボット工学、プロセス制御など、高いロバスト性が求められる様々な分野で応用されています。